2022年夏、HEPにとって初のクラウドファンディング「サンダルブランド「HEP」が、奈良から履物文化を発信する拠点をつくります!」を行いました。
どうなるかドキドキしながら挑戦しましたが、なんと195人の方から合計4,094,610円のご支援をいただき、無事にゴールすることができました。
心を寄せてくださったみなさま、本当にありがとうございます。
川東履物商店は、1952年の創業から2022年で70年になりました。
おかげさまで節目の年に拠点づくりに着手でき、新たな履物文化を発信するスタートをきれました。
その後、拠点「HEPランド(仮)」づくりを進め、ついにその一部が完成…!
どのような空間なのか、空間設計を手掛けた「やぐゆぐ道具店」の鈴木文貴さんにお話をお聞きしました。
拠点の空間は「HEPのフィッティングルーム」と言える
今回、奈良から履物文化を発信する拠点「HEPランド(仮)」の第一弾として、どの部分が出来上がったかと言いますと。
クラファンでも代表・川東宗時が熱くお伝えしました、「トイレ棟」です!
拠点づくりをする理由は、多くの方にその空間で履物文化を体験してほしいことと、工場(こうば)の環境改善です。
川東は、履物業界の下請けの仕事は大きく儲かるような仕組みになっていないため、業界に諦め感のような後ろ向きなムードが漂っていると感じ、「こういう環境で働いていると、自分の仕事に誇りをもちにくくなってしまうし、仕事に魅力を感じにくくなって人手不足も進んでしまう。工場の環境を良くしたい」と考えました。
その代表的な存在がトイレ。いまだに汲み取り式のところが多く、こうした環境は弊社も同様でした。
ですから、やはりトイレからご紹介しましょう!
そもそも「やぐゆぐ道具店」さんに依頼させていただいた理由は、展示会の出展ブースの空間設計をご相談したとき、お仕事ぶりに感銘を受けたからです。
とても丁寧にヒアリングをしてくださり、こちらの思いや意図を深く理解したうえで、何をつくるかご提案いただきました。
そのときに製作していただいたのが、こちらの空間です!
(2020年 合同展「大日本市」HEPブース)
サンダルを「つっかけている」ことが表現されています。さらに脚の動きがあるところもユーモラスで、目を引くデザイン。「かわいい」「おもしろい!」と評判でした。
まさに、HEPが表現したい気楽さ、そのなかのちょっとした遊び心やユーモアを上手に取り入れてくださったんです。
ただ美しく洗練されたものをつくり、見せるのではなく、目的のあるワークをされるのだ、と感じました。さらに他のお仕事を含め、「古いものを尊重しつつ、素敵にアップデートしていく方だ」という印象も受けました。
ではご紹介しましょう。こちらが、今回つくっていただいたトイレ空間です!
便器は最新型で、備品は清潔感があり良質なものを設置することで、モダンな雰囲気になっています。お客様や関係者、スタッフなど幅広い年代が利用することをふまえ、使いやすさやクリーン感を意識。
そして、トイレの入口では靴を脱ぐ形になっています。そこにそっと置いたのは、もちろんHEPのサンダルです。
鈴木さん、トイレの設計ではどんなことを考えたのでしょうか?
「ここはトイレではあるのですが、HEPの商品を履いて試せる場所にもなっています。HEPが目指す『気楽なサンダル』という気分や生き方にも通じるようなフィッティングができると思ったんです。だから、フィッティングルームとも言えますね。トイレだけではなく、いろいろなところでフィッティングできる構想を描いています」(鈴木さん)
他にどこでフィッティングできるのかは、後ほどご紹介します。
トイレ空間でお伝えしたいものがあと二つあるんです!
音が流れる掃除用具入れに、棍棒!? ユニークなトイレ
一つは、掃除用具入れ。
実は、ここがスピーカーにもなっていて、音が流れる仕掛けになっています。トイレの使用音を消す機能や楽しく音楽を聴く機能を搭載しました。
「HEPのある掃除の風景をアップデートしたいと思ったんです。音というカルチャーを加えるとどうなるかという実験でもあります」と、鈴木さん。
もう一つが、なんと…棍棒です!
「こ、棍棒!?」と思う方がいるかもしれません。驚きますよね(笑)。
もともとは、トイレ空間の話し合いのなかで「ご高齢の方が使う手すりが必要では」という意見が出たんです。
そこで川東が「履物産業以外でも、奈良のつくり手や産業をフィーチャーしたい」と目をつけたのが、奈良県宇陀市に住んで里山生活をしながら、棍棒づくりをしている東千茅さん。鈴木さんも「おもしろい!」と賛同し、東さんに特別注文して、HEPにこの空間のためのオリジナル棍棒が届きました。
設置してみたところ、モダンなトイレに、広葉樹であるイタヤカエデの柔らかい樹肌と持ち手の曲線美が妙にマッチしています。手すりとして使ったり、上にスマホを置いたりといろいろな使い方ができる、ユーモラスな仕掛けとなりました。
「当初はHEPが引き立つように、床のコンクリはモルタルを磨いた研ぎ出しという手法で仕上げました。さらに、床を尊重したデザインにしたいと思って、床に物をあまり置かないように設計していたんです。流し台や汚物入れなどを床置きしないようにしていました。でもそこにどかんと棍棒が登場した(笑)。それはそれで手すりのHEP的なアップデートでおもしろいと思っています」(鈴木さん)
価値観が発掘される楽しさが『HEPランド(仮)』の醍醐味の一つ
トイレの隣には、昔、川東家の親族が住まいとして使っていたお風呂をあえて残したギャラリーがあります。
「HEPが置いてある風景として、台所や玄関などの風景写真を共有しあって、空間のイメージをふくらませていたとき、『一番いいお風呂が残ってるじゃん!』という話になりました」と鈴木さん。工場の歴史が感じられるスペースになりました。
鈴木さんが「HEPらしさとは何か」と向き合ってくださり、その感性から生み出されたものばかり! 鏡のアイデアもユニークです。ギャラリーも鏡も、フィッティングの場になり得ます。
「お風呂場からあがるような感じでHEPを履いてみたり、鏡に自分の姿を映してみたりもできます。お客様だけでなく、ここで働いているスタッフさんも使うところですので、自然な流れで試着している自分の姿をチェックすることもできます」(鈴木さん)
鏡の扉の“足もと”を彩っているのが、デッキです。入り口のステップを大幅に拡張して、腰掛けたり、イベントのステージとしても使えるデッキスペースにしました。
「コンクリート打ち放しのままでは雨で滑って危ないと思っていたところ、履物のソールにある滑り止めがヒントになりました。HEPを製造するときに使う金型を、あえてコンクリート側に押すことで、逆説的な滑り止めになるのではないかと。坂道に滑り止めとして施されているドーナツ状の凹凸の、HEP的な遊びの表現でもあります」と鈴木さん。
金型を押す作業は、スタッフや協力者が大勢集まってワークショップ形式で行うことに! 金型を押すだけではなく、スタッフが裸足で押した足形も。遊び心のデザインが、参加したみんなの記念にもなりました。
「それがすごく盛り上がったんです。生のコンクリートですから、手や肩を取り合いながら行うのですが、むねさん(川東)、HEPの立ち上げから現在を支えるスタッフのみなさんや、この敷地での商いを今日まで繋いできたむねさんのご家族も一緒に新しい場をつくり、文字通り足跡も残せたんです。みなさん笑顔で、運動会のような明るさで。その『履物工場が盛り上がっている様子』に僕は感動してしまって…。未来の明るい様子が見てとれたから」(鈴木さん)
鈴木さんがおっしゃるように、とても楽しい時間でした。
でも私たちはただの拠点でなく、未来の明るい履物業界をもつくっている——。
鈴木さんのコメントに深く共感しつつ、改めて身が引き締まる思いです。
また、外壁や階段はペンキを塗り直しました。ペンキの色は、鈴木さんとHEPのグラフィックや商品のデザインを担当している長砂佐紀子さんが選んでくれたのですが、そのときにも鈴木さんらしいワークを感じるエピソードが。
鈴木さんはカラースワッチ(色味本)を持って、なんと川東の足元にあて「こっちのほうがむねさんらしい」と選んでいったんです。川東の肌色や服の雰囲気などをチェックしたのでしょう。随所でHEPらしさや川東らしさを意識してくださいました。
鈴木さんは『HEPランド(仮)』の醍醐味をこう話します。
「空間づくりが進むなかで、今まで気にしなかった商店街や銭湯にときめいたり、おばあさんのサンダル姿が妙にかっこよく見えたり(笑)してきました。私自身の価値観に『懐かしいけど新しい』HEPを通した目線が加わったような感覚です。もしかしたら、そんな感覚こそ『HEPランド(仮)』でお客様がフィッティングして感じられる楽しさなのかもしれません」(鈴木さん)
鈴木さん、ありがとうございました! 鈴木さんとの拠点づくりはまだ続きます。
次回は、「トイレ棟(仮)」のお披露目会の様子をお届けします!
『ヘップランド(仮)』
設計:やぐゆぐ道具店
施工:寺田工務店
施主:川東履物商店
聞き手・執筆:小久保よしの
写真:fujico
バナーデザイン:Angie
▼お勧めの動画
「靴下屋」の公式YouTubeチャンネル「靴下屋チャンネル」にて、HEPの活動をインタビューしていただきました。HEPが現在に至るまでの構想や、ブランド設立秘話について語る、10分ほどの動画です。
▼お勧めの読みもの
▼HEP(ヘップ)
奈良で1952 年創業の川東履物商店が立ち上げた新ブランド。
さっと履いて気楽に出かけられ、昭和の時代から愛され続けてきたヘップサンダルを、様々な角度からアップデートしていきます。
あらゆる場所へ気楽に一歩を踏み出せるように。
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